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4月度部会を開催しました

開催日:平成29年4月12日(水)

会 場:在日本韓国YMCA アジア青少年センター(東京都千代田区)

来場者:105名

 

 一般社団法人余暇環境整備推進協議会(余暇進/笠井聰夫代表理事・会長)は、東京都千代田区の在日本韓国YMCA アジア青少年センターにおいて、第159回理事会ならびに平成29年4月度部会を開催した。

 去る3月31日、内閣官房はギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議における資料「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理【概要】(案)」等を官邸webで公表。国内カジノの整備に向け必要とされるギャンブル等依存症対策に関する政策の進捗を示した。

 同資料において、ギャンブル等として公営競技とならび検討の俎上に載るぱちんこは、課題として「相談体制の充実と強化」、「アクセス制限の仕組みの導入、拡充・普及」、「出玉規制の基準の見直し」、「営業所管理者による依存症対策の義務付け」などが挙げられた。同会議では今後、具体的な対策やその実施方法についてさらに検討を進め、本年夏を目途に取りまとめを行う予定だ。

 我がパチンコ業界にあっては従前から取り組んでいる「のめり込み(依存)対策」の強化と徹底、新たな関連施策の履行が求められてくることが予想されるだけに、本会議が進めるギャンブル等依存症対策の行方を注視している。

 このような中、今回の部会では諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授(健康科学、脳科学)を招き、依存問題をテーマとした講演を聴講。講演後は、篠原教授とカジノ関連ビジネスに明るいJCMシステムズ株式会社の吉村泰彦社長、進行役を当協議会の伊藤實啓監事が務めディスカッションを行い、依存対策に係る政策の見通しやパチンコ店で取り組むべき対応などについて意見を交わした。

 部会開催にあたり当協議会の笠井会長から次の挨拶があった。

 

 「昨年暮れのIR推進法成立以来、ギャンブル依存が課題として社会的関心を集めている。遊技業界にあっては、従来取り組んでいる「のめり込み対策」を推進しているところだが、先般、ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議における検討内容が公表され、同対策法案の作成に向けた機運が高まってきている。本日、篠原先生はこの分野の第一人者としてご多忙の中、講演をいただける貴重な機会が得られた。ディスカッションでは参加者からも積極的に質問してもらい、この問題に対する理解を深めて欲しい。依存問題をきっかけに業界の環境も大きく変化しようとしている。この問題に対して自らがいかに向かいあっていくべきかとの意識をもって、充実した勉強会としていただきたい」

 

講演「遊技障害(いわゆるぱちんこ依存)&遊技における快感増幅」
講師:諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授(健康科学、脳科学)

 篠原教授は、遊技業界関係では脳科学の分野において、パチンコ・パチスロ遊技による脳活動のメカニズムを調査研究した経歴を持つほか、最近では自身のブログ(http://higeoyaji.at.webry.info/)にてギャンブリング依存に関する知見を記事として紹介。またギャンブル依存症対策に関する行政のヒアリングにも招聘され見解を述べるなど、遊技業界と関わり深い学識経験者である。

 講演では、はじめに政府が示した「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」の内容について項目と要点を取り上げ言及。すでに政策会議として論議されるレベルとなっている状況を鑑み、「ユーザーと向き合う依存対策の実施者は海外の例に倣うと営業者となり、また依存対策全般に係ってくるインフラの整備コスト等も収益の一部を充てるといった体系が作られるのではないか」と、私的見解を披歴した。

 その上で遊技業界が高い関心を寄せている「依存症という言葉が適切であるのか」、「ギャンブリング障害とは何か」、「ホール営業者として行動すべきこと」等について、依存・障害に関連する種々の情報を取り上げる一方、依存問題の調査手法に対する各論とその解説を交えつつ、向かうべき業界の方向性に関する提言を述べた。

 まず「ギャンブル等依存症」という用語の定義に関しては、「生活に支障を来すレベルで持続的に繰り返されるギャンブリングを指すものであるため、貧困や家族関係など生活が崩壊していない段階で依存症は病気であると認識することは正しくはない」と指摘。アメリカ精神医学会による精神障害分類「DSM-5」では依存症の呼称は消え、「Gambling disorder」(和訳:ギャンブル障害)とされていることや、WHOによる疾病及び関連保健問題の国際統計分類「ICD11」(2018年からリリース)でもGambling disorderとなったことから、ギャンブル等依存症ではなく、ギャンブリング障害とするのが適切だと話した。

 ギャンブリングとは「より価値あるものを得ることを望んで、価値あるものを危険にさらすこと」との定義を伝え、刑法上の賭博=ギャンブルとは一線を画して使われる言葉だとも伝えた。このためギャンブリング障害の中で語る場合のパチンコ・パチスロでは「遊技障害」(playing disorder)という言葉を使うべきだろうとの提案があった。

 ギャンブリング障害に関しては続けて「3つのタイプ分類」がなされていると紹介。背景要因の無い単純嗜癖型がタイプⅠ、大うつ病や双極性障害、パーキンソン病など他の精神障害を背景要因に持つタイプⅡ、境界性パーソナリティ障害やアスペルガー症候群、認知症などパーソナリティ等の問題を背景要因に持つタイプⅢに分類される。それぞれのタイプに対応した支援が必要であり「対応は折衷案の状態で今後の研究を要するものだ」と語り、対応法が混在しているが故に、現時点では支援する側にも十分な理解が進んでおらず、関係者間でも、ギャンブリング障害は「病気であるVS病気ではない」から「やめさせるVS寄り添う」、「自立を促すVSサポートするべき」などに意見が分かれている状況にあると報告した。

 付け加えて「ギャンブリング障害の定義が【やめられない】であれば、パチンコの各種調査ではスリープユーザーが多数存在していることから、自ら止め、自然回復している人が相当数に上ると考えられる」との見解を述べ、遊技障害と呼べるほどの対象者は絞られるべきだとの考えを示した。

 以上の概況を伝えた上で、篠原教授は専門とする脳科学の見地から「ハマるメカニズム」等についての研究分析結果を交えつつ、それが遊技障害とどのように関わってくるのかを解説した。「遊技にハマるとは、遊技したことで脳が変質するといった誤解があるが、そうではない」と否定した上で、ドーパミンの作用であることを紹介。遊技を通じドーパミンの作用による「快感の増幅」が楽しさとその渇望をサイクルさせ、その結果「満足」しているのが、多くの健全なプレイヤーである。一方、個々の素質としてこだわりが強い性格であったり、もともと生活が不安定だったりする人が快感の増幅を受けることで、より強い快感への渇望につながり、強迫的に遊技を継続したが故の借金等生活破綻へつながっていくプレイヤーが出てくる。これを重度の遊技障害と捉えることができると述べた。

 加えてプレイヤーアンケートによる遊技状況を使い「遊技障害の疑いのある人は、年間の使用金額がいくら程度で、それが何人に上るのか?」をシミュレーションしたところ、厚労省報告の536万人(2014年報告)を使用金額区分で測ってみると、年間24万円~59万円が約530万人、60万円~99万円が160万人、100万円~119万円が65万人などと推定できるとした。使用金額が分かることで、個人の収入に応じた割合が計算できるため、遊技障害リスクの尺度として捉えることができる。すると、仮に月2万円の使用金額でリスクとなる人への対応、月10万円でリスクとなる人への対応と、想定となるプレイヤーにあわせた対処を構築することができるだろうとの私案を語った。

 より正確に実態を把握するためには、統計やアンケートといった推計ではなく、将来的にはプレイヤーの遊技状況が把握できるシステムの上で捕捉されるべきものだと付け加えた。

 篠原教授は「遊技障害対策は、生活支援対策であるとの考え方が馴染むものと考えている。病気として片付けてしまってはいけない。また精神障害と合併しているケースに関しては、医者が関わってアセスメントすべき問題なのだろう。遊技業界にあっては遊技障害の注意喚起に際し、ぱちんこ依存は病気ですといった表現は避け、〝暮らしを大事にしましょう〟とするのが適切だ」と話した。

 

ギャンブル依存対策についてディスカッション

 篠原教授、JCMシステムズの吉村社長、進行役の伊藤監事が登場して、ギャンブル依存対策をテーマにディスカッションを行った。はじめに政府が思案するギャンブル依存対策において「海外カジノは対策が進んでいるという考えを持っているようだ」と吉村社長から話があり、具体的には「シンガポール型を目指しているのか、個人チェックをする方法が考えられている」、「アジア、北米、ドイツなどいろいろカジノはあるが、国や州で様々な対策をしている。日本のギャンブルには依存対策が行われていない。パチンコも同じくということで、議論が始まっている」と検討に際して始動部分となったポイントを述べた。

 これに対し篠原教授は「ギャンブリング障害に関する調査は随時行われており、カウンセラーの設置や認証制度の検討に移っている。対策がなされていないという見方になっているが、すでに行われている状況であって、遊技業界ではRSNやワンデーポートといった存在を活用する方がよいと思っている」と話し、政府ではギャンブル依存対策として一定の制度化を目指す方向にあるものと認識を共有した。

 また吉村社長は、問題とすべき点が不確実な依存対策への対応として「カジノでは予防と治療、教育が挙げられるが、遊技業界としては依存対象者をのめり込ませないよう、何が出来るのかが必要だと考えている。依存にかかってしまった人の治療・回復をどうするのか、国内で定まったものはない。教育は義務教育の中でアルコールや薬物ともども教えていくべきではないかと思う。残る予防の部分は、業界が行う必要がある部分だろう」と話し、設備機器メーカーとしてのカードユニットによるID識別や呼び出しランプ等での報知をスタッフのオペレーションをもって対応できるものが提案できると紹介。これらは「ホールにとってそれが依存対策ではなく、サービス向上のための仕組みだと捉えてもらえるものが普及するのではないか」と見通した。

 プレイヤーへの声掛けを含む依存対策は設備をもってしても「ホールにとって悩ましいところだ」、「まずホールがすべき点は何があるのか」と伊藤監事が話を向けたのに対し、篠原教授は「学者の希望としては、タスポ型のような仕組みがあって、はじめて個々人の障害の要因を研究していくことができる。認知症の研究では、あるひとつの町を30年にわたって同一調査を継続している。今は『依存は射幸性の問題』とされるが、研究が進めば射幸性の問題は挙がって来なくなるのではないかと考えている」と述べたほか「強いて言えばPPDS(遊技障害尺度)のチェックシートを改変して教材に活用することはできると考えている。それはホール担当者の教育にもつながっていくだろう。チェックシートにアドバイスを盛り込むなど資料化し、周知することで理解を進めていく。問題の根っこがパチンコではなかったと、家族らにも知ってもらえるようになる」、「アドバイスの内容が強迫的なものとならないようにするのが知恵となる」と語った。

 個人のID管理が進む海外カジノの例として、吉村社長は「排除すべき人をしっかり排除しているという形にするのがまずは大事なのかと思う。シンガポールでは家賃の滞納が6ヵ月とか、法律家で破産した人とか、21歳未満とかを排除している。しかしパチンコではそのためのインターフェースがない。問題のある人と未成年を選別する術をもっていない」と環境整備が重要になるとの見方を示した。

 この意見に続き篠原教授は「レスポンシブルギャンブル。ライフバリューを高めることが重要だということにカジノは重きを置いている。高額ギャンブラーにいかに継続してもらうのか、ということ部分でサービスが展開されている」と話した。